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花博自然環境助成事業

令和3年度助成事業 成果概要の報告

団体名(所在地) NPO法人生物多様性研究所あーすわーむ〔長野県〕
事業名 浅間山の草原・森林における動植物モニタリング調査
事業の実施場所 浅間山湯の平(小諸市)、浅間山麓のつつじヶ原(軽井沢町)
事業の概要 浅間山の亜高山帯、偽高山帯に貴重な自然草原が存在するがシカの採食圧や森林化、乾燥化等により、草原環境の維持が危ぶまれている。その草原の生物多様性の維持のために、生息する動植物のモニタリング調査を実施し、当該地の保全に向けての効果的な方法や対策について考察する。
成果の要約

4月中
長野県の環境課や東信森林管理署への許可書作成と申請
外部専門家との調査内容やスケジュールに打ち合わせ(オンライン)

<つつじヶ原> 偽高山の草原(標高1350m)における活動実施内容

  • 4月23日

方形区のメンテナンス
冬から春にかけて、積雪の重みで支柱が傾いたり、方形区の紐がイノシシにより切られたので、紐の張り直し、支柱の立て直しなどメンテナンスを実施した
東邦大学の植生調査も実施(アカマツの侵入状況と土壌の菌根菌との関係のための土壌採取など)  

  • 7月1〜2日 

東邦大学植生調査、センサーカメラの電池・SDカード交換

  • 8月17〜18日

ドローンでのシカ調査準備と調査(夜間)
調査地の全景および植生調査位置の撮影
環境省信越自然環境事務所・上信越高原国立公園管理事務所の現地視察  

  • 9月19日 

シカによる草本類の採食圧調査(あーすわーむを含む浅間山麓草原保全協議会メンバー、東邦大学で実施)

  • 10月22〜23日 

アカマツやススキの刈払い(あーすわーむを含む浅間山麓草原保全協議会メンバー、東邦大学、環境省上信越高原国立公園管理事務所、麻布大、立教大生)計12名参加(23日は8名参加)

  • 11月17日 

ドローンでのシカ調査(明け方)、調査地の景観撮影

<湯の平> 亜高山帯の草原・森林(標高2100m)での活動内容

  • 5月15日

申請時には秋にドローンでのシカ調査を企画したが5月と8月に変更した
5月の調査では、飛行中にドローンが落ち大破したため、ドローンによるシカのカウント調査は実行できなかった

  • 7月24日

絶滅危惧種であるミヤマモンキチョウ(高山蝶)の発生場所の確認およびチョウの予備調査

  • 8月20〜21日 

ドローンでのシカのカウント調査(夜間、明け方)、上空からの湯の平の景観を記録
シカの忌避植物であるマルバダケブキの位置を確認    

  • 11月18〜20日(この調査については別予算で実施)

ドローンでのシカのカウント調査(明け方)

  • 1月22〜2月13日

群馬県立自然史博物館の特別展「ぐんまの自然の「いま」を伝える報告会」にて、ドローンによるシカのカウント調査結果をポスター展示(添付資料)

東邦大学の植生調査およびドローンによるシカのカウント調査のデータ整理やドローンによる撮影画像の合成、センサーカメラのデータ整理は、適宜実施

<つつじヶ原>
1.
方形区(刈り取り区と無処理区)における植生調査では、刈り取り区のみが刈り取り前と刈り取り後に年数が経つにつれ、その群集構造に変化が見られた。
また、刈り取ることによって、レッドリストに記載されているヤマトキソウの出現、草原性植物のアヤメやオトギリソウも新たに記録された。
さらに年数の経過によって、刈り取り区では刈取りの効果が出てくると考えられる。
2.
近年、植生の変化や安定性に大きな役割を果たすことがわかってきた菌根菌がアカマツの侵入による植生の遷移状況に応じて、どのように変化するか、根のDNAから調べたところ、植生の遷移の進行とともに調査区あたりの植物種数およびOUT(操作的分類単位)数が有意に減少した。草原がミクロスケール(1m2)での種多様性が高い生態系であることが確認できた。植物種数が多い調査区ほど真菌の種数も多かった。
3.
センサーカメラ調査では、シカが最も撮影され、次いでキツネとイノシシ、次にノウサギ、クマとタヌキで8種を確認した。シカの撮影頻度は、以前の調査時とあまり変わらなかった。
4.
ヤマハギ、マツムシソウ、ノハラアザミ、アキノキリンソウ、ヤマハハコ、オミナエシ、クロマメノキ、イタドリについてシカの被食率を調査した結果、ヤマハハコ以外は食痕を確認し、被食率は2.2〜66.7%であった。これまでの調査(3期)を概観すると、2013年の被食率は全体的に高くはなかったが、2017年は高くなり、現在はその中間くらいの値になった。しかし、シカの選好性の高いオミナエシの激減、ハンゴンソウやキキョウの減少など、植生の変化がみられるようになった。
5.
つつじヶ原において、ドローンで確認されたシカの頭数は、8月に2頭、11月で7頭であった。草原内ではなく森林内での確認であった。


<湯の平>
1.
ドローンによる直接的な観測によって、約1平方kmの中に少なくとも40頭以上が生息していることが示され、植生に多大な影響を及ぼす高密度状態であることがわかった。また、湯の平における大型獣のモニタリング方法として、赤外線および可視光を搭載したドローンによる調査が有効であることが示された。

2.
今後に向けて、7月にチョウの予備的調査を実施したところ、ミヤマモンキチョウ(日本では中部地方の高山でのみ生息)は5個体のみ確認され、他にはヤマキマダラヒカゲ、クロヒカゲ、ヒメキマダラヒカゲ、ヒオドシチョウを観察した。シカによる植生への影響により、チョウの生息も影響を受けていると考えられるため、現況を記録したいと考えている。
3.
ドローンによる静止画像および動画を撮影することにより景観を記録した。今後、シラビソなどの倒木の状況や特定の植物(例えば、シカの忌避植物であるマルバダケブキ)の分布などの植生状況を把握するため、分析方法の検討など行いたいと考えている。


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