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花博自然環境助成事業

令和3年度助成事業 成果概要の報告

団体名(所在地) 西日本自然史系博物館ネットワーク〔大阪府〕
事業名 令和2年7月豪雨で水損した前原勘次郎植物標本の修復
事業の実施場所 全国の自然史博物館および熊本県
事業の実施期間 令和3年4月~令和4年2月
事業の概要 令和2年7月豪雨による球磨川氾濫で前原勘次郎植物おし葉標本コレクション(人吉城歴史館所蔵)約3万点が水損した。現在、標本は全て現地から搬出され、全国の協力機関で一時冷凍保管されている。今後協力分担して修復を行い、球磨地方の地域植物相解明や郷土種緑化に参照可能な基礎資料として維持・整備する。
成果の要約

令和2年7月の発災直後より順次全国の博物館に対して協力要請、着払い(協力者負担にて移送)
令和2年夏~3年3月 順次各機関での乾燥・修復作業。条件検討をしながら、迅速処理を優先としたが、処理できない分は冷凍保存で保持。(総量約2万点)
 コロナによる出勤停止や学生の立入禁止措置などにより作業に大幅な遅れが生じた。
ここから助成対象期間
令和3年4月~令和4年2月 各機関での乾燥・修復作業(約1.5万点)
              目録データとの照合、データ入力・修正
 各機関の研究者や学芸員、(コロナなどの制限が緩和され)可能な場合には市民ボランティアも参加して、標本の乾燥にあたった。量が多いため、修復はそれぞれの機関が対処可能な最小限とした。援助により、対処しきれない資料は機関間で転送して対処にあたった。
 熊本現地での今後の対処方針の話し合いは何度か試みたが、第4、5、6波の感染拡大により叶わず、ズームによる遠隔会議システムでの実施となった。人吉市により、市の文化財である標本の返送に際しては人吉市負担で行いたいとの申し出があり、助成事業としては、返送のための資材を中心とした支援に当たることにした。このため、本来の予定事業の通信運搬費および、旅費交通費が縮減され、消耗品費が増加したが、決算は予定額より下回る結果となった。
令和4年1月~2月 修復済み標本の輸送(各機関→人吉市役所)が一定程度進んだ。当初は熊本県博物館ネットワークセンターへ一時的な集約を図る予定であったが、人吉市の方針が決まったため移送先も変更された。ただし、空調が十分な保管場所が十分に確保できず、廃校校舎など植物乾燥標本の保管には余り適当と思えない場所となることから、
1.標本を小分けにしてのチャック付きポリ袋での保管
2.積み上げての保管に耐えるようにダンボールのサイズ統一、必要な物品の支給
3.ダンボールが吸湿して劣化することを防ぐため、布団圧縮袋を利用しての保管と防カビのための脱酸素剤の使用
4.更に保管環境の管理のための湿度モニタリング用資材の確保などを行った。

助成期間終了後も引き続き令和4年4月~10月 各機関での乾燥・修復作業(残り5千点程度)をすすめ、目録データとの照合、データ入力・修正を行うとともに、現地入りしての保管及び活用に向けた支援を行う。

活動の実施成果
1.大正期・昭和初期を含む熊本南部地域の植物標本を中心とした前原勘次郎標本の大半を保全することができた。各地に配送時点ですでにカビやバクテリアの繁殖が見られたので、配送、冷凍での仮保存ができなければこれらの資料は失われていたと思われる。
2.前原勘次郎標本に含まれる、タイプ標本の状況の解明が進むとともに、コレクションの全貌への理解が進んだ。コレクションの状態は一部に中外、データの欠損が見られるものの全体に良好であるが、重複標本が多いなど、活用上の課題も見られ、今後の保存のための地元への提言の材料とすることができた。なお、1、2の成果については令和4年3月6日に植物分類学会で海老原らによって報告した。
3.支援により、協力してくれた各博物館の負担を軽減することで持続可能なレスキュー体制とすることができた。
4.自主的な取り組みへの体制を示すことで、行政の取り組みを促し、役割分担をすることができた。結果として無理のない実施体制を確保することが可能になった。
5.2011年の東日本大震災に続き植物標本レスキューを実施することで、各博物館学芸員などの災害時レスキューに関する知見が更新された。10年という間隔はノウハウの伝達のためにも、重要な機会になり、若手や周辺ボランティアへの伝達にも自然史標本レスキューへの意識啓発にもつながった。

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