■土壌調査 西大台の緩斜面地には天然のヒノキ林がブナ林に混じるようにして分布していた。今回行った調査でブナが斜面の下部に多く分布しているのに対し、ヒノキは尾根だけでなく斜面の中部、下部にも分布しており分布パターンに違いがあることが認められた。 ヒノキとブナの植生を分けているのは土層深と土壌硬度であると考えられた。土層深50 cmが閾値で、土層が50cmより深ければブナが侵入でき、浅ければブナの生育は難しくなってヒノキが優占してくる傾向が認められた。土層深が50cm以上ある場合にはヒノキ林とブナ林の出現割合は均衡しているが、土層深が50cm以下になるとヒノキ林が84%となり、ブナ林の出現する割合15.8%を大きく上回った。この結果は土層の厚さが植生に影響していることを示している。ブナの根は平面状に拡がり根の重量の地上部に対する割合が小さいことから、土壌が薄いところではブナの生育が難しくなるものと考えられた。 土層が50cm以上深いとち密層が出てくる深度は深くなる傾向が見られた。50cm以下の場合には根系の発達に影響するとされる2000 kPaの硬さを持った土壌が30数cmの浅いところに出現していた。ブナの生育は2000 kPaの土壌が出現する位置が土層の深いところにあるほど好ましい傾向があることが認められた。
■植生調査 ヒノキ自然林は、ニホンジカによる摂食の影響を強く受けた状態下でシノブカグマ、マンネンスギ、キッコウハグマ、コカンスゲ、ウスギヨウラク、ベニドウダン、シロヤシオ、サラサドウダン、ソヨゴを群落識別種として分類され、マンネンスギ-ヒノキ群落と呼ぶことにした。 本群落の識別種群は主に低木層、草本層の構成種であるが、マンネンスギ以外はニホンジカの摂食害を受けやすい種のため、摂食害を強く受けた状況下では、優占度階級が極めて低い状態であった。これらの識別種群は土壌のリターの堆積が薄い立地に出現する傾向があり、ウラジロモミ-ブナ群集にはほとんど出現しない。 また、日本植生誌近畿(宮脇他1983)に記載がある、紀伊山地に広く小面積で痩せ尾根や岩崖地に分布する既知のビノキ自然林であるヒノキ-ホンシャクナゲ群落やヒノキ-ツクシシャクナゲ群集とは、高木層や亜高木層にブナ、ミズナラ、オオイタヤメイゲツなどの広葉樹が高い常在度で出現し、それらの樹幹や枝に着生するミヤマノキシノブ、ナガオノキシノブ、ヤシャビシャク、アオベンケイなどの着生植物を伴うことや、また、常在度は高くないが、ヤマイヌワラビ、オオミネテンナンショウ、ハスノハイチゴ、ヤワラシダ、カンスゲなど主に水分条件に恵まれ、土壌のA層が発達した立地を好む種が出現することから、異質の群落であることが判明した。 植生学上の群落分類体系上の位置づけとして本群落は、上級単位としてツガ群団標徴種であるヒノキそのものが優占度階級4~5と高くかつ出現頻度も高いことからツガ群団の要素を有するが、同群団の標徴種であるツガ、ヤマグルマの常在度は低くかつ優占度階級も低いことはニホンジカの摂食害の影響も無視できない。
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