COSMOS PRIZE コスモス国際賞

受賞者の主な著書(受賞年度まで)


2009年度: グレッチェン・カーラ・デイリー博士

生態系サービス-自然生態系から人間が受けている恩恵について

Nature’s Services
Societal Dependence on Natural Ecosystem.

(生態系サービス-自然生態系から人間が受けている恩恵について)

アイランド出版、1997年(英語版のみ)

人類は、自然生態系から、さまざまな恩恵を得ている。生態系がもらす直接消費できる財である食料、飼料、木材、繊維、燃料、医薬品などの「食糧供給サービス」、生存に欠くことのできない気候安定化、水質浄化、洪水制御、授粉などの「調整サービス」などである。しかし、自然生態系を過度に利用することにより、土地、漁場、森林などが有していた生産性を損ない、生物多様性も失うこととなっている。
科学技術の革新により、このような人類の活動による自然破壊を、一時的には回避することができるかもしれない。しかし、一時的な、また一部地域にだけ適用されるような手法に基づいて対処していくだけであれば、いずれ、限界点に達し、最早、自然生態系を復旧することが不可能となる状況に至ってしまう。このため、一時的、一部地域にだけ有効であるのではない、長期的、全地球的な見通しを持ち、対処する方法を持つことが求められている。
自然生態系に関する問題の解決にあたり、これまで行われてきた手法は、社会学、経済学、政治学など、それぞれ単独、固有の考え方に基づいている。このため、自然生態系を一面的に評価しているものの、適切な評価ができていなかった。自然生態系が重要であることは知られているが、その詳細が十分知られているとは言い難い状況にある。
デイリー博士は、本書において、これらの問題に関して研究を行ってきた様々な自然科学者、社会科学者の実績を収集、選択し、それに序文、結論を付加し、自らの実績も追加して編集を行った。その目的は、人類が自然生態系から得ている恩恵を明らかにし、適切な評価指標に基づいて、その価値を明らかにするものである。そして、適切な評価に基づく意思決定により、自然生態系からの恩恵を継続して得ることを可能とし、人類の幸福を確保することを目指すものである。

自然の新経済学-自然保護の経済的な有効性を明らかにするための試み

The New Economy of Nature
The Quest to Make Conservation Profitable

(自然の新経済学-自然保護の経済的な有効性を明らかにするための試み)

出版社:アイランド出版、2002年(英語版のみ)

これまで、自然資源は無限に存在すると思われていたが、人口の増加、人間の欲望の増大により、そうではないことが明らかになってきた。自然資源すなわち自然生態系の資産というものの重要性と希少性への認識が明らかになってきており、その経済的な重要性も大きくなってきている。 自然資源の枯渇が、現在の人間の生活や将来の子どもたちの生活に脅威を与えかねないものであるため、自然資源を保全することによって、引き続き、自然からの恩恵を確保することが肝要となっている。
また、森林による水質浄化や洪水防止など自然資源の評価も十分できていなかった。これまで評価されていなかった自然資源の価値を適切に計測し、これらが失われる前に保全する必要がある。
このような状況のなかで、自然資源を保全するための様々なアプローチが、世界中で、試みられている。そのために、自然科学と経済学など学問的分野、ビジネスと政治などの実務的な分野を、相互に関連するものとして考え、これらを統合して、実効性のあるモデルの構築、継続していく法的な制度などを制定する取組みが行われている。また、経済活動と自然資源の保全が相反するものではなく、調和するもの、十分経済的利益が得られるものとして実現することが目指されている。
デイリー博士は、本書において、自然資源の保全に関わる新たな基本的な考え方、その具体化の例を提示し、今後の取組の参考となるようにしている。紹介されている内容は、材木など自然から直接得られる資源ではなく、二酸化炭素の排出量取引のような新たな自然資源の商品化が構想されてきた経緯、コスタリカにおける果汁工場の廃棄物を肥料として利用し、生態系の復旧に役立てる例、アメリカ、ニューヨークにおける水質保全のために水処理施設を建設する代わりに土地の保全を行った例など、魅力的な先駆者たちによる実例である。

2008年度: ファン・グェン・ホン博士

紅河河口域のマングローブ生態系~生物多様性、生態系、社会経済性、管理と教育

MANGROVE ECOSYSTEM IN THE RED RIVER COASTAL ZONE
Biodiversity, Ecology, Socio-economics, Management and Education

「紅河河口域のマングローブ生態系~生物多様性、生態系、社会経済性、管理と教育」

出版社:農業出版、ハノイ、2004年(英語版のみ)

ベトナムは多様性に富み、生物資源を豊かにさせたマングローブ林を育てた国である。しかし、マングローブが生態系に与える重要な役割を認識していなかったため、大量に伐採され、沿岸地域に住む貧しい住民の生活を脅かした。
幸いなことに、NGOや海外からの支援もあってベトナム北部の八つの州で大規模なマングローブ植林が行われ、生態系も急速に回復しつつある。
本書は、ハノイ教育大学のマングローブ生態系調査研究センターの長年にわたるマングローブ調査を基にまとめられたもので、マングローブ生態系と環境保全の実態を知る上での好著である

THE ROLE OF MANGROVE AND CORAL REEF ECOSYSTEMS
In natural disaster mitigation and coastal life improvement

「自然災害の緩和や沿岸地域の環境改善におけるマングローブと珊瑚礁の役割」

出版社:農業出版、ハノイ、2006年(英語版のみ)

マングローブ林や珊瑚礁といった沿岸湿地帯は生物多様性に富んだところであり、環境やそこに住む人々にとって重要な役割を果たしている。しかし、急速な人口増や、経済開発、とりわけエビ養殖のため北部や中部ベトナムのマングローブが伐採され、珊瑚礁も石炭採掘などによる水質汚濁のため破壊されている。
本書は、2005年10月、ハノイで開催されたワークショップ「マングローブと珊瑚礁の自然災害や環境改善に果たす役割」をまとめたものである。

2007年度: ジョージナ・M.・メイス博士

Conservation of Exploited Species(搾取された生物の保全)

出版社:ケンブリッジ大学出版、2001年(ISBN 0 521 78733 5)(英語版のみ)

裏表紙から「野生生物を、食糧利用をはじめ人間の必要を満たすために利用することは、生物多様性の保全にとっては大きな脅威だが、さまざまな文化圏で多くの人びとが、日々の暮らしと交易を野生生物利用に依存しているのもまた事実である。本書では、世界の専門家の協力により、野生生物の狩猟・採集に従事する人々の多岐にわたる目的と野生生物の生態との相互関係について検証がおこなわれている。理論の検討により、野生生物の持続可能な利用と個体数動態に関する研究とがいかに関連しているかが、野生生物の繁殖率、生活史、習性、生態との直接の結びつきとともに、明らかにされる。個体数動態の研究成果は、野生生物利用が個体群保全におよぼす影響を予測するのに有効だが、野生生物の持続可能な利用と保全にそれが効果的に用いられた実例はほとんどない。なぜ用いられてこなかったのか、本書はその背後にある多くの原因を究明した上で、推定値に不確定要素をどう取り入れるかといった科学的問題や、利用目的をめぐる対立に起因する社会的・政治的問題など、それらの原因にいかに取り組んでいくべきかを検討している。」

Conservation in a Changing World (変化する世界の保全生物学)

出版社:ケンブリッジ大学出版、1998年 (ISBN 0 521 63445 8)(英語版のみ)

裏表紙から「生物の多様性が目に見えて急速に損なわれつつある現在、その保全のために、どのような方法・技術を用い、何を優先的に実行するべきだろうか。このことを選択・決定すべき必要性に、多くの人々が気づいている。保全活動における優先領域を特定するための定量的手法は、生物種分布の研究成果をうけて長足の進歩をとげたが、今後は生物過程に関する知識を保全計画立案に生かしていかねばならない。人間の活動が環境に与える影響は、今後も先例のない形で環境を変化させ続けると見込まれる。本書では、保全計画を立てる際に、環境変化の進行下で生物種が互いに及ぼしあう動的影響をどう扱うかについて、グローバル規模からローカル規模までさまざまな研究成果を活用しながら考察・検討がなされている。保全生物学、野生生物管理、生態学に携わる大学院生、研究者、専門家にとって、本書は貴重な知識・情報を提供してくれるはずである。」

Creative Conservation - Interactive Management of Wild and Captive Animals

(独創的な保全生物学:野生と飼育動物の管理)
チャップマン&ホール出版、1994年(ISBN 0 412 49570 8)(英語版のみ)

裏表紙から「絶滅危惧種を飼育下繁殖することと、絶滅危惧種および生息域を野生状態のまま保全・管理すること、この両者の関係は、保全計画の長期的成功の鍵を握る重要な問題である。飼育下繁殖された生物群は野生とどのように関係していくのか、種と生息域を確実に存続させるには何が必要か、種と生息域の未来にどう貢献すべきか。これらはすべて、保全への取り組みが成果をあげることを願う人びとにとって最大の関心事となっている。
1992年、「地球保全における動物園の役割」をテーマにジャージーで開催された「第6回絶滅危惧種の飼育に関する世界会議」で、こうした問題について検討が行われた。本書はそこでの討議の成果として編まれたものだが、単に討議内容を記録したものではない。編者も各執筆者も会議で取り上げられた重要課題についてその後さらに考察を深めており、その結果、最新の成功事例や進展状況が本書の各章に盛り込まれている。このため本書は、この問題に関心を寄せるすべての読者にとってきわめて重要となるにちがいない。
個体群管理の取り組みには生物学、ロジスティックス、経済学に関わる問題が関わってくるが、執筆陣に各分野から第一線の専門家を多数得たことで、本書はこれらの問題をすべて網羅している。また、達成目標が提示されていると同時に、これまでの成功例や失敗例が適切な事例研究によってわかりやすく説明されている。野生と飼育を相互に関連させながら絶滅の危機に瀕する動物個体群を管理することに関して、本書はその議論の進展に大きく寄与するものである。」

2006年度: ラマン・スクマール博士

The Living Elephants: Evolutionary Ecology, Behaviour, and Conservation

(現代のゾウ:進化生態・行動・保全)
オックスフォード大学出版、2003年(ISBN 0195107780)(英語版のみ)

裏表紙から「本書は古代長鼻目から現代のゾウまで、進化生物学に基づいてゾウの行動・生態・保護と人間との交流を説明します。その多様な中味は、気温や植物の変化による進化、マストドンとマンモスの絶滅、ゾウの分子遺伝学、ゾウと人間の交流による文化歴史、ゾウの生殖と行動、情報伝達と社会、摂食と植物に対する影響、ゾウと人間の衝突、象牙の密猟に対する個体群動態などにわたり。アジアのゾウ文化といった新しい学説とともに、アフリカとアジアにおけるゾウの長期間的視点による保護政策も提言しています。ゾウ研究の第一人者ラマン・スクマール博士の著書の中で本書は一番徹底したものです。生物学者だけを対象にしたものでなく、自然保護論者、社会学者、歴史家とゾウに興味のある万人向けの書物です。」

Elephant Days and Nights: Ten Years With the Indian Elephant(ゾウの日々:インドゾウとの10年間)

オックスフォード大学出版(Oxford India Paperbacks)、1995年(ISBN 0-19-56381-2)(英語版のみ)

裏表紙から「ゾウとインド人との関わりは独特な歴史があります。アジア全域にわたって、ゾウは熱帯林での要となる動物であり、人間の文化・社会・経済に一番大きな影響を及ぼしてきました。しかし、ゾウと人間が衝突することもあり、すぐに解決しなければならない問題です。
著者は1980年からインド南部で野生のゾウを調査研究してきました。本書はゾウの生態、社会行動、人間との交流、現在直面している問題等を解説するとともに、野生ゾウの観察結果について触れています。本書の主要項目は、「生殖と摂食」、「ゾウによる農作物の被害や人間の殺害」、「ゾウ社会と季節的な行動と象 牙」、「密猟によるゾウの殺害」となっています。」

The Asian Elephant - Ecology and Management (アジアゾウ・生態と保護)

ケンブリッジ大学出版、1989年(ペーパーバック版)
(ISBN 0-521-43758-X)(英語版のみ)

裏表紙から「アジアゾウと人間との関わりは4000年以上の歴史があります。時に、ゾウと人間が衝突することもあり、このことがゾウのかつての生息地であったアジア南部全域でゾウ個体数を減少させる要因となっています。本書は、インド南部のゾウの研究を基に、ゾウと人間との関係に関する生態学的な分析と、ゾウの保 護・管理について述べたものです。
本書は、アジアゾウの生態と、人に危害を及ぼす可能性のある大型野性動物と人間との関わりに方について述べた世界で最初の本です。内容は、ゾウの個体数の減少の歴史、現状の保全問題。季節的な移動と摂食の関係。ゾウと人間との軋轢(ゾウによる農作物の被害や人間への危害、また逆に人間による生息地の変更やゾウへの危害、象牙の密猟による個体数の減少などについて 説明しています。この生態学的なデータに基づいて、アジアの経済と社会について考えながら、具体的なゾウの保護と管理方法について提案しています。」

2005年度: ダニエル・ポーリー博士

Darwin’s Fishes - An Encyclopedia of Ichthyology, Ecology and Evolution

(ダーウィンの魚・魚類学、生態学、進化の辞典)
ケンブリッジ大学出版、2004年(ISBN 0-521-82777-9)(英語版のみ)

裏表紙から「本書はチャールズ・ダーウィンによって書かれた魚に関することに基づいて、魚類学、生態学、進化等の観点からまとめられたものである。記事はABC順に載っていて、ある魚の一種や体の一部、化学物質、科学者、場所、進化や生態学の学説等について書いてある。読者は好きなところから読むことができ、色々な情報を探りながら不思議いっぱいの旅に出る。全てはチャールズ・ダーウィンの文章と繋がっている。この旅によりダーウィンの時代と現在の生物学 や生態学の歴史的差異を読者に提供する。
本書は、魚やチャールズ・ダーウィンの研究、進化的な生物学、生態学や基礎的な自然科学に興味がある人向けである。」
(以上、出版社の承諾を得て載せています)

In a Perfect Ocean - The State of Fisheries and Ecosystems in the North Atlantic Ocean

(最適な海に~北大西洋の漁業生態系の状態)(ダニエル・ポーリーとジェー・マクリーン)
Island Press、2003年(ISBN 1-55963-323-9)(英語版のみ)

裏表紙から「本書は世界の海の生態系を調査するシリーズのひとつです。北大西洋全体を実証的に調べるために著書は伝統的な漁獲データと最新の科学技術を利用し、海洋食物網が非常に変化している状態を明らかにしています。そしてどのようにこの状態まで至ったのかを説明し、海の回復への方向を提案しています。」
(以上、出版社の承諾を得て載せています)

On the Sex of Fish and the Gender of Scientists (魚と科学者の性別について)

Chapman and Hall、1994年(ISBN 0-412-595400)(英語版のみ)

裏表紙から「ダニエル・ポーリ博士は、一番引用されている漁業生物学者である。本書では、科学的な未知の世界を発見しているポーリ博士の幅広い話題に関して加筆した27のエッセーが集まっています。
本書は、熱帯の漁業、魚の生態、乱獲と漁業生物学の実用化について等に分けてかかれています。レイ・ヒルボーンの前書きと本編は16の項目によって構成されており、ポーリ博士はその一つを担当しています。
本書は魚類額や漁業生物学の関係者向けです。漁業研究者、科学者や学生を問わず本書は皆の本棚にあるべきだろう。」
(以上、出版社の承諾を得て載せています)

2004年度: フーリャ・カラビアス ・リジョ教授

For Earth’s Sake - A Report from the Commission on Developing Countries and Global Change (地球のために・発展途上国とグローバルチェンジ協会の報告)

International Development Research Center、1992年 (ISBN 0-88936-622-5)
(英語版のみ)

前書きと裏表紙から地球環境の変化と発展途上国委員会は、IDRCとスエーデン途上国協会からの援助を受けて、次の問題意識から設けられました:
・世界的な環境問題は、発展途上国に壊滅的な影響を及ぼす
・環境問題に発展途上国の参加が欠かせないという認識はあるが、途上国が参加するための支援策が遅れている
本書は、発展途上国の立場から、全地域的な環境問題にどう取り組むべきか、独身の提言を行っています。筆者は、地域の生態系の保全は、ただ単に経済生活を調整するだ けではダメで、持続可能性のある発展のために、開発と保全、南北問題などに対して基本的な意識改革が必要だとしています。
(以上、カナダのIDRC(www.idrc.ca)の承諾を得て載せています)

2003年度: ピーター・H.・レーブン博士

Biology (生物学)(ピーター・H・レーブン、ジョージ・B・ジョンソン)

McGraw-Hill Higher Education、2002年 (ISBN 0-07-303120-8)(英語版のみ)

出版社のホームページから本書は進化をテーマとした、生物学専攻向けの教科書です。1986年に初版を発行し、この度読者、専門家と教授と相談の上、改訂版を発表した。他の教科書と違って、本書は生命多様性をもたらす自然淘汰と進化を強調する。最新の研究を付け加えるだけでなく、最近のコンセプトに応えて本書の内容も変更した。さらにオンライン学習センターとBioCourse.comを通じて教授と学生に豊かな情報を発表する。

Biology of Plants (植物学)(ピーター・H・レーブン、レー・F・エバート、スーザン・E・アイクホーン)

W.H. Freeman/Worth Publisher、1999年 (ISBN 1-57259-041-6)(英語版のみ)

出版社のホームページから「植物学専攻の学生にとって本書は主な教材として長く親しまれてきました。特に高度の学術研究、生物の多様性、進化と生態に関する幅広い内容と、優れた絵画や写真でよく知られています。この改訂版は、最新の情報(特に分類学、遺伝学、植物ホルモンやArabidopsisの研究)も豊富に取り込まれています。」

Flora of China Series (中国の植物シリーズ)(ウー・チェン・イー・ピーター・H・レーブン)

ミズーリ州植物園出版、サイエンス出版 (ISBN 0-915279-34-7) (英語版のみ)

1999年度の受賞者、呉 征鎰(ウー・チェン イー)博士参考。

2001年度: アン・W.・スパーン教授

アーバン・エコシステム:自然と共生する都会

公害対策技術同友会、1995年 (ISBN 4-87489-121-7)

人工物で覆われた都市の住民は生活しにくさ実感しています。そして都市は自然を対立的にとらえられがちですが、実は都市と自然はその気になれば共生できる、というのが本書の主題です。ランドスケープアーキテクト(造園建築家)であり、環境プランナーである著者は女性らしい着眼でさまざまな事例を拾いあげ、既存の都市の環境 を改善するヒントを提出しています。
どんな人工都市でも大気に無縁ではいられません。大気中の有害物質、突風と無風、ヒートアイランド化などは住民にとって死活の問題となります。同様に土、水、動植物などとの関係は都市そのものの運命にかかわります。それらをキメ細かく改善していくことで驚くほど住心地がよくなるといいます。一例を挙げると、ニューヨークの騒々しいミッドタウンにつくられた小さなビルほどのスペースのペイリー・パークは、ほどよい緑陰と敷石、ツタで覆われた壁、勢いよくなだれ落ちる滝、自由に移動できる椅子があって、夏は涼しく冬は暖かいのです。都市に微気象の別世界をつくり出すこうした小公園があちこちにできればニューヨークが変わるでしょう。
エピローグの未来ビジョン「地獄の都市」「天国の都市」は都市問題を考える人に格好の指針となっています。

The Language of Landscape (風景の言語)

Yale大学出版、1988年 (ISBN 0-300-08294-0)

ペンシルバニア大学造園建築学・地域計画学教授である著者は、前作への読者の反応を受けた上で、都市の詩的な局面と自然を記述するべくこの第二作を著しました。基本的構想を展開する中で、景観を正確に記述・成文化するための言語が絶対的に必要だと認識するに至っています。
主要データを様々な立地に求め、風景・音・香り・感想の記述・描写を伴う写真や紀行日記を主たる参考文献としています。
景観は言語であるという著者の認識に驚く者もいれば、憤慨する者もいます。しかし景観は、造園建築の中核的活動から派生した言語であるので、多くの造園建築家に当然の事と受け止めてられている、と著者は述べている。
自然と人間性の基礎的要素に根付いて、我々がどのように思考し・行動するかを選択する上での根源的変革を要求し・可能にしているという意味で、著者の理論は急進的する。

2000年度: デービッド・アッテンボロー卿

鳥たちの私生活 (訳:浜口哲一、高橋満彦)

山と渓谷社、2000年(ISBN 4-635-59614-1)

魅力的な写真と興味をそそる記述で愛鳥家を満足させる本です。スペースの約半分を占める227点の写真は小さくても半ページ、さらに1ページ大や見開きのものもあって美しく、なかでも鳥たちの「決定的瞬間」をとらえた写真はその生態を一目瞭然に示しています。一方、440種に及ぶ野鳥の記述は、それぞれの鳥がなぜそのような姿をし、そのように行動するかを進化論や生態学の最新の知見を紹介しながら納得いくまで追求されています。
爬虫類の特徴をもつ始祖鳥はどんな鳥だったのか、羽があるのに飛べない鳥がいるのはなぜか、鳥たちはどんな能力をもち、飛んだり食物を得るためどんな工夫をしているか、などの疑問に驚くべき答えが返ってきます。
鳥の世界は実に多様です。アマツバメは9カ月の間、一度も着陸せず空中で補食、交尾し、生涯に地球と月を何往復もする距離を飛ぶのです。花の蜜を吸うハチドリの中には1秒に200回羽ばたきするものがあり、コウテイペンギンの雄は冬の南極で4カ月間、飢餓に耐えて卵を抱き続けます。狩りをする鳥たちの写真は息を呑む迫力です。

植物の私生活(訳:門田裕一、手塚勲、小堀民惠)

山と渓谷社、1998年 (ISBN)

肉食動物は草食動物を介して植物を食べているように、人間を含む全生物は植物がなければ一日も生きていけません。このような植物の意外な生態を明らかにしたのが本書である。与えられた環境で穏やかに生きているように見える植物が動物や他の植物を相手に繰り広げる生存競争の苛烈さは動物のそれと少しも変わりません。
トゲによって種子を守る果実もあれば、動物の足に食い込んで傷を負わせながら遠くへ運ばれる果実もあり、その肉食獣の牙のような写真に驚かされます。甘い香りで昆虫を誘惑する食虫植物、果肉を提供しながら最も栄養価の高い種子は毒を出して守るチャッカリした植物も少なくありません。有名なレミングの集団自殺の謎も最近わかったところでは、食べられて絶滅の危機に瀕した草がレミングを飢えさせる毒を出し、彼らを死の海に駆り立てるからだといいます。
最小限の犠牲で最大限の繁殖を達成しようとする一方、他との共生によって生き残りを図る戦略もあります。また極地や砂漠など極限の環境を独特の方法でしのぐ植物もあれば山火事の発生を前提に新生、再生を果たす植物もあるのです。進化がもたらしたそれらの「知恵」を知れば世の植物愛好家の植物観、生命観は一変することでしょう。

地中海物語(訳:橋爪若子)

東洋書林、1998年(ISBN 4-88721-179-1)

原題「ザ ファースト エデン」は地中海世界を人類の最初の楽園に見立てたもので、太古から現代に至るその歴史を博物学、考古学、生態学などの知見に照らして描いています。図版や地図も多く、楽しめる読物となっています。
ヨーロッパとアフリカの間にあった入江が両大陸の接近によって650万年前に干上がり、その後に大西洋の海水が滝となって流れ込んだという話にまず驚かされます。流入した海洋生物と沿海部の動植物は独自の進化をとげたが、地中海世界の生態系を一変させたのは人間で、特に4万年前ごろネアンデルタール人にとって替わったクロマニヨン人は大型動物を狩って生活圏を一挙に拡大しました。人類の活動は5000年ほど前、エジプトに世界初の統一国家が生まれたころから加速し、キプロス島、クレタ島、ギリシアなどに生まれた小国家、地中海沿岸全域を支配したローマ帝国は大量の木材を消費する文明を発達させ、緑豊かな森はほとんど姿を消しました。8世紀にはピレネーからパミール高原に至るイスラム帝国が成立。それ以来、キリスト教とイスラム教の両勢力は覇権を争いながら文化的にまじり合い、多彩な地中海文化が発達したのです。
その後ペスト、新世界の発見、幾多の戦乱を経て現在に至った地中海世界は、華やかな現代文明の陰で生態系がひどく破壊され、自然は滅亡の危機に瀕しているといいます。

The BBC Natural History Unit’s Wildlife Specials

(BBC自然史部の野生動物特集) (前書き: デービッド・アッテンボロー)
Trident Press、1997年 (ISBN 1-900724-16-2)(英語版のみ)

カバー見出しから「本書は世界一魅力的な動物の中からホッキョクグマ・ワニ・ワシ・ヒョウ・オオカミ・ザトウクジラ六種の動物を特集したテレビ番組に基づいています。デービッド・アッテンボローの下で、カメラマンと演出家が撮影したこの番組は最新の研究と技術を生かしてこの生物界のスーパースター達を新しく描写し、かつて撮影されたことがない私生活も明らかにしています。本書はこのユニークな番組を作製した人たちによって書かれたものです:ホッキョクグマに付いて行って、漂ってしまった流氷から救われる体験をしたマーサー・ホームズ、フィリピンの密林を探検して猿を食べる珍しいタカの劇的な撮影をしたマイケル・リチャーズ、オオカミから逃げているバッファローの群に囲まれたマイク・サリスバリー、初めて赤外線で暗い夜にヒヒを狩っているヒョウを撮影したアマンダ・バレットとオウェン・ヌーマン、そして水中、船上と専用飛行船からザトウクジラのダイナミックな魚獲を撮影したアンジー・バイヤットのチーム。
何よりも本書とテレビシリーズは自然の多様性を生かすエンタティメントがたっぷりある。テレビと出版の極みである。」
(以上、出版社の承諾を得て載せています)

The Trials of Life - A Natural History of Animal Behavior (生きものの挑戦:動物行動の自然史)

Little, Brown, and Company、1990年 (ISBN 0-316-05751-7)(英語版のみ)

カバー見出しから「デービッド・アッテンボローの新書と同名TNTテレビシリーズの中から二話を取り上げています:「地球の生き物たち」は生命の誕生から現代まで。そして「生き物たちの地球」は環境がいかに生きものの体を形づくったかにポイントを置いています。今回、「生き物の挑戦」でデービッド・アッテンボローは、生き物がどう言う 風に体を使うのかを調べています:動物行動とその理由。
おそらく動物行動は自然史の一番刺激的な分野かもしれません。アクションと演技がいっぱいです:浜辺に登り込んでアシカの子どもを捕まえるシャチ、サハラの砂丘で太陽を参照しながらナビゲートするアリ、洞穴の天井で泣いている大勢の赤ん坊から自分の子どもを捜すコウモリの雌。この動物行動専 門書はシリーズ一冊目として相応しものとなっています。
写真とビデオ技術の進歩につれて、科学者は動物行動をもっと細密に観察できるようになってきました。例えばマレーシアのマングローブ沼沢でホタルが同時に光ることはただの意味のない光ではなく、小さな甲虫の求婚方法であることなど。最新の技術と科学者の努力によりかつて知られていなかった行動が明らかになりつつあります。
本書は、テレビシリーズと同じように、段階別に動物の生命を調べる。デービッド・アッテンボローが感激的に、生から死に至るまで動物の生命の歴史を収録をしています。十一年前に始まったシリーズの最終巻は、アッテンボローが楽しく分かりやすい文章と立派な写真によって、この自然科学の最新分野を紹介するものである。」
(以上、出版社の承諾を得て載せています)

Life On Earth・地球の生きものたち (訳:日高敏隆、今泉吉晴)

早川書房、1990年(ISBN 4-15-203204-9)

イギリス放送協会(BBC) が数年間にわたって世界各地で収録したフィルムを放映したときのタイトルがそのまま本書の題名となっています。映像を1冊の本にまとめたのはイギリスを代表する動物学者・自然誌学者・映像作家である著者で、生命の起源から人類全盛の現代までの動物の進化の過程が多数の写真とともに手際よく描かれています。
話は22歳のダーウィンが1832年、ビーグル号で南米を訪れ、生物のあまりの多様さに驚いて創造神話を疑い始めたことに始まります。水中や陸上に棲息する動物がどのようにして出現し、現在に至ったか、なぜあのように行動するのか、自然淘汰によって起こる遺伝的変化の積み重ねが進化であるとしたダーウィンが現代に生きていたら、このような本を書きたがったかもしれません。海に生きる軟体動物の中からどのようにして魚類が生まれ、その一部がどのように上陸を果たしたのか、爬虫類から鳥がなぜ進化したのか、その経緯が語られるが、話がドラマチックな展開をみせるのは哺乳類が台頭して以来のことです。小さな食虫性哺乳類からクジラまでの多様さはいうまでもなく、サルの仲間から人間という特異な動物が出現するまでは驚異に満ちた物語です。

The Atlas of the Living World (生命世界の歴史地図)

Marshall Editions Developments Limited, 1989年 (ISBN 1-84028-037-9)(英語版のみ)

カバー見出しから「本書は地球の生物が絶えず変化している世界を明らかにします。動物や植物がどこに住むか、その理由を説明し、その地図によって地域別に自然史を現わしています。この地図を基に、科学者、画家と写真家が最新の知識を総合して、自然界を表現しています。
本書は世界規模で地球を形づけ、また生命を生み出した物理的・生物的なプロセスを表図化しています。生きている大陸と死んでいる恐竜の物語、全動物を変化させた氷河期と新しい島の誕生の物語を含んでいます。
さらに、様々な多数の生息地の環境にも焦点を当てています。熱帯や亜熱帯の森林から、草原と藪、沿海と島、砂漠と凍原、それぞれの地域で生息する生物の特徴がわかるものとなっています。
この生息地の中での生きものの日々の活動はニッチのもので、そこでは資源を分け合ったり、仲間を見つけたり、子供を育てたりしなければならないのです。
しかし、この生きている惑星は不変ではありません。地球の生物が移動したり新しい環境に入ったりするのです。数の激増と激減もあるので生命の世界はいつも動的です。人間の誕生が自然に及ぼした沢山の影響も本書で記録し、説明されています。
生命世界の歴史地図は、最新の科学情報によって未来を形づける生命力を解明します。そこで地球の管理という次世紀の重要な課題についてふれられています。」

生きものたちの地球 (訳:天野隆司、野中浩)

日本放送出版協会、1985年 (ISBN 4-14-008452-9)

前書きから「本書はBBCテレビのシリーズ番組をもとに書かれたものです。本書とその番組は、「地球に生きる(Life on Earth)」と題された、前回のシリーズ番組とその本の続編にあたります。前回の作品は、動物や植物たちが過去三十億年にわたってこの惑星の上でどう発展してきたかを描写しようと企画されたものであり、さまざまなグループの動物たちの発展の跡をたどり、それがやがて哺乳類の繁栄につながり、ついには人間の誕 生として実を結ぶまでを追っています。
今回の新しい本では、現在の状況をあるがままに眺めていくものとなっています。新しい進化してきた仲間たちだけでなく、古代から生き残った仲間たちがどうやって共に繁殖し、地球上の変化にとんだ環境にどう適応してきたかを検証しています。動物や植物の世界はきわめて変化にとんでいるので、ほとんどのもので、前回書かれたもの以外の種にまつわる話を取りあげられています。
今回も前回と同じ書き方を踏襲し、可能なかぎり専門的な科学用語はさけ、本文中にラテン名をいれ、索引をつくって用語集に使えるように工夫されています。そこにはそれぞれの生きものの登場するページだけでなく、学術的名称も入っているので、科、属、種のことが書かれているかを正確に知りたい読者は、この索引を調べればわかるようになっています。」

1999年度: 呉 征鎰(ウー・チェン イー)博士

Flora of China Series (中国の植物シリーズ)(ウー・チェン・イー、ピーター・H・レーブン)

ミズーリ州植物園出版、サイエンス出版 (ISBN 0-915279-34-7) (英語版のみ)

本書のホームページから(http://flora.huh.harvard.edu/china/mss/intindex.htm)「中国の植物多様性は非常に高いものです。アメリカとほぼ同じ国土だが中国には2倍の植物種があります:約3万種(世界全種の8分の1)対アメリカとカナダの1万7千種。この3万種の中で8千種の薬草や経済的に重要な植物と7千5百種の樹木や低木があるのです。
本書は中国にある全ての草木に関する説明、種類の検索表、中国内と外国の分布や情報の問題点を記載しています。また、植物学名リスト、参考書目等がオンライン上にもあります。
アメリカ、カナダ、イギリスとヨーロッパ諸国、日本、オーストラリアとロシアなど国際的な協力によって原案は作り出され、中国の植物学者、原本の「中国の植物」の編集者との検討の上で本書を発刊しています。」(以上、出版社の承諾を得て載せている)

雲南の植物I、II、III

日本放送出版協会、1986年 (ISBN 4-14-009901-1 (0-915279-34-7))

前書きから「中国の雲南省は、チベット高原、長江以南の亜熱帯平原丘陵、山地とインドシナ半島平原山地との中間の過渡地帯に位置し、自然条件はきわめて複雑多様です。植物種は非常に豊富であり、植物分布はほぼ全てが森林で熱帯林から寒帯林までがそろい、種子植物だけをとっても13,000種余、ゆえに「植物の王国」とよばれています。」
「雲南の植物」(全三巻)は、雲南産の野生植物種のなかから代表的かつ鑑賞価値と経済的意義のある植物約千百余種を選んで編集し、3巻に分けて出 版されています。第一巻に収集したものは雲南西北部の寒冷な高山地域の植物、第二巻に収集したのは雲南中部・東北原地帯、主として温帯・亜熱帯に属する地域の植 物、第三巻に収集したのは雲南南部低海抜丘陵地帯、主として熱帯に属する地域の植物となっています。
「雲南の植物」(全三巻)は中国雲南人民出版社が編集し、著名な植物分類地理学者、中国科学院生物学部委員、中国科学院昆明植物研究所名誉所長、シリーズ「中国植物志」の副主編、「中国植被志」と「云南植物志」の主編である呉征鎰が主編を受け持ち、発刊されました。
「雲南の植物」の日本版は、中国雲南人民出版社と日本放送出版協会による協力出版となっています。」

1998年度: ジャレド・M.・ダイアモンド博士

銃・病原菌・鉄 (上・下) (訳:倉骨彰)

草思社、2000年 (ISBN 4-7942-1005-1(上)、4-7942-1006-X(下))

人の生活は住む地域によって大差があります。富と権力を握り、高度の物質文明を享受する社会がある一方、数千年来の狩猟採集生活をする人々も残っています。この差は何かという万人の疑問に、生物学、考古学、文化人類学など広範な科学の最新の知見をもとに答えたのが本書で、1998年ピューリッツァ賞、1998年花の万博記念「コスモス国際賞」が贈られました。
著者によれば、人類は今から1万3000年前の最終氷河期までは大差のない狩猟採集生活をしていました、その後、ユーラシア大陸から新大陸への移動などで生活空間が一挙に拡大、それぞれの地域でそれぞれの歴史が形成されていったのです。地球規模で現代に至る支配、被支配関係が生まれ、格差の固定化をもたらした決定的な事件が16世紀のスペイン人によるアメリカ先住民征服だと言えます。銃・病原菌・鉄は征服の要因を端的に挙げたもので、銃と鉄製武器に加え、伝染病に免疫を持たない先住民がスペイン人に感染させられて大量死したことを意味しています。征服の要因にはこのほか遠距離の侵攻を可能にしたヨーロッパ国家の集権的政治機構、航海技術、文字による情報の事前入手などもあるが、それがなぜヨーロッパで実現し、新大陸で実現しなかったか、著者はその要因がそれぞれの環境にあるとし、人種によって資質に生物学的な差異があるとする見方に精力的に反証しています。

セックスはなぜ楽しいか(訳:長谷川寿一)

草思社、1999年 (ISBN 4-7942-0876-6)

人間の性行動はあらゆる哺乳類の中でも特異で、近縁の類人猿とさえ全く違うものです。受胎の可否にかかわらずセックスする、男性が子育てに深くかかわる、女性に閉経があり、その後もセックスする。セックスの目的が生殖と考えると説明のつかないことが多すぎるのです。いわば性の逸脱ともいうべきこんな行動は人類特有の 文化に基因すると思われがちだが、著者はその因果関係を逆転してみせています。一見生物の論理に反する人間の性行動は自分の遺伝子を確実に残すための戦略で、火 の使用や言語、芸術の発展はその延長上にあるといいます。
奇妙な性行動といえばある種のクモのオスは交尾の後、必ずメスに食べられる。繁殖の目的が生存率を最大化することにあるとすれば理屈に合わないが、オスがメスに出会う機会が少なく、また交尾によって生まれる子の数がメスの栄養状態によって決まるとすれば、オスは自らの遺伝子の伝達を最大化するため甘んじて食べられるのです。また食べられている最中のオスの生殖器は挿入されたままなので交尾の時間が長くなり、多くの精子を放出することができることになります。
このように特定の種の繁殖戦略は生物学的要因、生態学的要因に応じて進化します。人間の不思議な、そしてさまざまな悲喜劇をもたらす性行動も例外ではないのです。

人間はどこまでチンパンジーか? (訳:長谷川真理子、長谷川寿一)

新曜社、1993年 (ISBN 4-7885-0461-8)

原題の「第3のチンパンジー」とはヒトを意味しており、「人間とは何か」が本書の主題です。アフリカに棲息する霊長類の中からヒトの祖先がチンパンジーの祖先と分岐したのは約700万年前。その後、2足歩行、石器の使用、ヨーロッパ・アジアへの進出と行動範囲を拡大してきたが、現代人が考えるような「人間らしさ」を身につけたのはわずか4万年前だったと著者は繰り返し述べています。解剖学的にいえば10万年前には現代人とほぼ同じクロマニヨン人がアフリカにいたし、近縁のネアンデルタール人でさえ火を日常的に使用していました。しかし、彼らは農業、芸術、高度な技術とは無縁で、その意味ではチンパンジーの仲間にすぎなかったのです。
では、4万年前に人類を飛躍させたのは何か。「言語能力の完成」というのが答えで、その結果、狩猟の効率化、農業の発明、新天地への進出が可能になり、現代文明に至っています。しかし、著者はむしろ人類が環境破壊とジェノサイド(集団殺戮)を加速させていることを指摘し、その未来に深刻な疑問を投げかける。とりわ けヨーロッ パ出身の白人がここ数百年にわたって重ねてきた所業の罪深さが暴かれるものです。興味深々の、しかし背筋が寒くなるような人類史物語となっています。

1997年度: リチャード・ドーキンス博士

Climbing Mount Improbable (改良可能な山を登る)

W.W. Norton & Company、 1997年 (ISBN 0-393-03930-7) (英語版のみ)

裏表紙から「極めて複雑で正確無比に作動する人間の目のように精密なものが、どうして偶然の産物であるといえるのか」という記述があります。New York Timesが傑作と賞賛する本書は、著者は進化的適応を地球上における生命のメカニズムとして極めて合理的で親しみ深い例証を交えて説明しています。
「改良可能な山」という比楡は、一見意図的に設計されたかのように見える、生物における完壁さと不可能さとの組合せを示したものです。著者は、この山の峠や多くの高い峰を登って完壁に至る長い改善可能な道のりを読者に巧みに案内します。無花果の多産性、蜘蛛の複雑で上品な世界、飛ぶことのできない動物の体に羽が進化していく過程などを、非凡な適応の実例に、情緒深いイラストを交えて強い説得力で説明しています。そして、終わりなき時間の巡礼の旅において、それぞれの個 体の運命を定めることになる生命の分子体であるDNAの糸が、これらの全てに通っているのです。」

遺伝子の川 (訳:垂水雄二)

草思社、1995年 (ISBN 4-7942-0672-0)

地球上で世代を継いで生き延びている遺伝子の川の流れは約3,000万本、つまり生物の種の数だけあります。絶滅した種を含めると30億本にも上るとみられるが、過去にさかのぼるとすべての川が合流していくのです。たとえば人間とチンパンジーの川は700万年前までは同じだったし、さらにさかのぼると各種の哺乳類、爬虫類、果ては最も単純な構造をした生物の流れに行き着くのです。
今は比べようもないほど離れてしまった種が元は同じ川を流れていた証拠は遺伝子にあります。ドーキンスによれば遺伝子は正確に自己を複製し、何万世代を経て、いささかも減衰、劣化することはないのです。
それはまさにデジタル情報の原理であり、本書では「デジタル・リバー」の章で詳述されています。問題はそうした万古不易の遺伝子を抱いた生物が無数の種に分岐していく原因で、デジタルな遺伝システムと突然変異、自然淘汰によっていっさいの生命現象を説明する論理的明晰さが快いものとなっています。
欧米でよく問題になる創造神話と進化論の相克をめぐる論考も興味深いものです。その一例は、ガゼルを捕殺するため最大限に進化をとげたチータと、チータを餓死に追い込むため極限の身体的条件を備えるに至ったガゼルがひとりの造物主によってつくられたとしたら彼は何者なのか、といった類いです。

ブラインド・ウォッチメイカー(上・下)(訳:中嶋康裕、遠藤彰、遠藤知二、疋田努)

早川書房、1993年 (ISBN 4-15-207811-1(上)、4-15-207812-X(下))

この本の表題は18世紀の神学者ウィリアム・ペイリーの著作に由来します。彼は精密な時計にはその作成を意図した職人がいるように、時計よりはるかに偉大な自然には必ず作者がいるはずだと説くのです。いうまでもなく神のことですが、ドーキンスは時計と自然のアナロジーは誤りであるとし、精妙きわまる生命体をつくったのは何の目的も持たな い自然淘汰、つまり盲目の時計職人であることを論証します。欧米では旧約の創造神話を信じ進化論を否定する人は今でも少なくないし、自然の驚異をよく知る科学者がその故に神の実在を信じる話もよく聞きますが、本書の主張はその対極にあると言えます。
ドーキンスはコウモリの知覚、コンピュータモデル、DNAの生成などの例を挙げて神秘的ともいえる自然のメカニズムを明らかにする半面、そこに神のデザインを見ようとする人たちの錯覚をあぶり出します。本書のすごいところは、自然のすばらしさと、その生成の無目的性の両面を徹底して追求していることで、欧米における無神論の主張が容易でない事情を思わせます。
自然淘汰を主題にした本書に対して寄せられた「『種の起源』刊行以来、最も力強くかつ最も面白いダーウィン主義擁護の書」というエコノミスト誌の賛辞にうなずく読者は少なくないでしょう。

利己的な遺伝子(訳:日高敏隆、岸由ニ、羽田節子、垂水雄二)

紀伊国屋書店、1991年 (ISBN 4-314-00556-4)

本書は1976年に気鋭の生物学者、ドーキンスによって世に出た「生物=生存機械論」の増補改題版。生存機械論というのは、「われわれは遺伝子という名の利己的な分子を生き残らせるために、盲目的にプログラムされたロボットである」とする説です。従来の生物観や人間観を根底から揺るがし、欧米で思想、教育界 を巻き込んで、大きな議論を呼びました。
例えば、親が労をいとわずに子を育てる、敵の姿に気づいた個体が自分の身に降りかかる危険を恐れず警戒の声を発する――動物に見られるこのような自己犠牲的な利他行動は、その種にとって好ましいものではありますが、こんなリスクの大きい行動がなぜ進化できたのでしょうか。その答えのひとつは、利他行動によって互いに守 りあう集団は、そうでない集団より、よく生き残るだろうという「群淘汰説」です。
これに対しドーキンスは、淘汰はやはり個体、正しくは遺伝子に働くという「遺伝子淘汰説」を説く。すべての利他的行動は、本来利己的で自分が生き残ることだけが目的の遺伝子によって指令されているといます。自らのコピーを増やそうとする遺伝子の利己性を解き明かし、豊かな学識と機知を織り交ぜながら、大胆 に、かつきめ細かく刺激的な利己的遺伝子論を展開しています。

延長された表現型(訳:日高敏隆、遠藤彰、遠藤知二)

紀伊国屋書店、1987年 (ISBN 4-314-00531-9)

遺伝子が生物個体をヴィークル(乗り物)として次々に乗り捨てていく永遠の自己複製システムであるとするドーキンスの「利己的な遺伝子」理論は生物学者から聖職者までの広範な異論、反論を呼び起こした。生物学者の異論の多くは、生命現象の基本が遺伝子ではなく生物の個体にあるという“常識 ”に基づいています。これは個体の各部分が一体的に協調しているためで、彼らは個体の存在理由を何ら疑わず、関心はなぜ個体が集まって社会をつ くるのかに集中しているのです。ドーキンスは逆に、なぜ各種の生命物質が集まって個体をつくるのか、なぜ太古の自己複製子が寄り集まって個体の中に入り込んだか を問います。
個体とは遺伝子が自己を次世代に送り込むためにつくり出した道具(表現型)と考えるドーキンスは、さらに進んでその道具が個体の外部にも延長されていると主張します。寄生虫が自己の利益のために宿主の成長に影響を及ぼすのは遺伝子の働きの一例だが、彼はビーバーのつくるダムにもそれを見るのです。ビーバーの家族が 安全に生きていくためにつくるダムの延長は何百ヤードにもなるが、そうしたダムをつくる能力、木を切り倒すのに必要な歯はダーウィン主義的な自然淘汰のも とに進化してきたのであり、淘汰が働くためには遺伝的な変異があったというのです。

1996年度: ジョージ・B.・シャラー博士

ラスト・パンダ(訳:武者圭子)

早川書房、1996年 (ISBN 4-15-208021-3)

「パンダが利益を生むため、なりふりかまわずパンダを利用しようとする個人や団体が出てくる」──。シャラーはパンダ保護の前に立ちはだかる問題の本質は、人間の強欲と無関心だとし、政治、科学両面の関係に光を当てる必要性を強調しています。
彼は1980年から4年半、中国四川省で野生パンダの生態を研究し、異文化間の相互理解を求めながら、保護活動に奮闘しました。本書ではその体験を振り返っています。
調査は難渋を極めました。研究そのものが困難だったのではなく、後援する世界自然保護基金(WWF)と中国政府の両組織間の意思疎通が欠けていたためです。中国人研究者たちとの共同作業でしたが、活動計画から少しでもはずれることも、自由行動も厳しく制限され、あらゆる挙動がチェックされ、報告されるのです。文化大革命の後遺症もありました。毛沢東の近代化政策以来、パンダにとって最も大切な竹林は容赦なく伐採され続け、むやみに捕獲された野生パンダは、日本や台湾の動物 園に高値で貸し出されたのです。保護区内でも、密猟者のわなに掛かった無残な姿をしばしば目にしました。
一方で、輝くような毛並みのパンダが現れると、周囲の竹やぶがくっきり明るく見え、心が躍ったといいます。「楽しい思い出と心が痛む思い出の両方がある」と結ばれています。

ライオン、忍び寄る黄金の影 (訳:今泉吉晴、今泉みね子)

早川書房、1990年 (ISBN 4-15-203446-7)

1960年代後半、タンザニアのセレンゲティ国立公園でライオンの野外調査に取り組んだシャラーが3年間の体験をつづったのが本書。捕食者、獲物動物、人間の複雑な依存関係を具体的、かつ詩情豊かに描き出し、大型野生動物の最後の輝きを伝えます。「この地域が永久に存続するために必要な、人々の理解と興味を深める一助としたい」と記しています。
獲物動物たちの生命はいつも不安定な状態に置かれています。突如ライオンが最後の突進へと身をひるがえす瞬間まで、自分が重大な誤りを犯しているのかどうか、彼らにはわからない。不意の死を予期しながら暮らしているわけでもないのです。
危険を察知し、あるいは単におびえただけで獲物動物が声をあげると、隠れていた捕食者があっさりとあきらめることがあります。捕食者はいったん獲物に気付かれてしまうと、それ以上の努力はほとんど無駄であることを経験から学んでいるのです。
筆者はサバンナの土ぼこりと無限に広がる空間の中で、ひたすら動物たちを待ち、その行動をつぶさに見ながら思索しました。「一人で何時間も続けて動物を観察していると、五感は研ぎ澄まされ、動物の行動の微妙な差異をも見逃さなくなります。こうした親近感を持つことは、動物への理解を計り知れないほど進めた」と述懐して いるのです。

野生のパンダ(ジョージ・B・シャラー、胡錦矗、潘文石、朱靖)(訳:熊田清子)

どうぶつ社、1989年 (ISBN 4-8622-246-3)

ジャイアントパンダを絶滅から救うためのWWF(世界自然保護基金)と中国の共同プロジェクトの一環として、シャラーは中国の研究者たちとともに、1980年からパンダの生息地、四川省で調査・研究した。その結果を報告しましたのが本書です。
パンダほど人をひきつける動物は他にいない。しかし、実際のパンダは肉食動物でありながら、食物を竹に大きく依存するなど謎に満ち、その生態についてはほとんど知られていませんでした。それだけに、マウンテンゴリラなどの直接観察で成果を挙げたシャラーたちが竹林をかき分け、雪面に残された足跡を追跡しながら 取り組んだ、この総合的な調査・研究は重みと説得力を持っています。
パンダは竹という食物源に非常に緊密に結び付く方向に自然選択され、体の大きさや活動の仕方まで、生活の多くの面で竹の影響を強く受け続けてきましたた。それでは、どのように竹に適応してきたのでしょうか。例えば、竹を大量に食べられるように、細胞の内容物を短時間に抽出し吸収できる仕組みを備たました。食物の通過速度も大きなポイントだが、パンダは口いっぱいに竹の葉をかみ取り、短時間で数キログラムを食べることが可能です。解剖学的に見ると、竹の茎をかみ砕きやすい大きく平 らな臼歯、鋭いかぎ爪などを持っているのです。

Stones of Silence: Journeys in the Himalaya (沈黙の石: ヒマラヤの旅)

シカゴ大学出版、1988年 (ISBN 0-226-73646-6) (英語版のみ)

本書裏表紙より「沈黙の石」は失われつつある環境に珍しい一望を与えます。科学者の目を通して見ながら詩的な言葉で書かれた物語となっています。アイベックス・ヒマラヤタール・マーコール、ウリアルといったヒマラヤの野生の羊や山羊の生息範囲に対する人間の侵入が引起す影響を評価する目的で、著者は1969年から1975年にかけてヒマラヤを旅しました。こうした動物やそれらを餌にする肉食動物についての著者の観察、動物に接近する際の危険な行程の物語が、この山岳地帯が沈黙の石に変わってしまうことのないようにと苦闘を続ける優れた動物学者の興味深い話しとしてまとめられています。
「世界的に著名な実践的生物学者である著者は、野生動物の生態を調査し、白然保護に適した地域を探す自らの旅を、パキスタン・インド・ネパール3カ国の山岳地帯の危険に満ちた11の僻地に分けて、記述している」とNew Yorkerは書評しています。大いなる冒険と興味深い研究を融合させた極めて重要な著作となっています。

セレンゲティライオン(訳:小原秀雄)

思索社、1982年 (ISBN 4-7835-0092-4 (上)、4-7835-0093-2(下))

東アフリカ・タンザニアのセレンゲティ国立公園はライオンとヌー、シマウマ、ガゼルなどの有蹄類の大群がいることで知られています。シャラーはタンザニア国立公園局の招請により、ライオンの生態の研究、なかでも「ライオンの捕食は被食者個体群にどのような影響を及ぼすか」という疑問に答えるため、セレンゲティで3年余フィールドワークに取り組みました。同公園局は有蹄類の保護とライオン個体群の維持に関心を持っていたのです。
すべての観察はランドローバーからされたものです。数多くの個体を識別するため、定住性のライオンは耳の切れ目の特徴や傷跡で見分け、放浪性のものに対しては空気銃によりますいを投薬して近づき、耳に金属製のタグを付けました。
上巻では群れの構造と移動、群れ内の行動、個体群動態、食性についてきめ細かく報告しています。ライオンはネコ科の中で最も集団的な動物でし。2頭以上の集団をプライドと呼びますが、プライドは2頭以上のオスと数頭のメス、および子供から構成され、その個体数は4─30頭あるいはそれ以上となります。ライオンの味覚には偏りがありません。被食者はワニ、ホロホロチョウ、ヒヒなどにも及びます。自分で被食者を殺すほか、ハイエナなど他の捕食者の食物を横取りするし、病気などで死んだ動物も食べる。
下巻ではライオンの獲物狩りについて述べ、ライオンより集団性が低いヒョウやチーターなど他の捕食者の観察結果を紹介したうえで、結論として、捕食者の社会システムの動態、捕食の動態をまとめています。
数頭のライオンが一緒に忍び寄ることは、被食者を捕らえる点で、単独行動するのに比べほぼ2倍の成功率があるといいます。ヌーやシマウマなど体重100kg以上の被食者を好むが、これらの獲物はライオン数頭分の食物になるのです。群れの中では分業が可能で、例えば、1頭のライオンが獲物を守っている間、他の個体は日陰を探したり、子供を連れて来たりできます。群れでの生活は、生命を保証する形態でもあるのです。病気のライオンは仲間が捕った獲物を頼りに、何カ月も生きられるのですから。
被食者の個体数の増加を抑えるために、捕食者がどの程度まで有効な要因になっているか見極めるのは難しいといいます。捕食者以外に、各個体群の繁殖力、生息地の条件、種内競争、病気などがすべて個体数制御のために、同時に作用し合っているためです。ただ、捕食者が被食者の個体群の平衡を、環境によって課せられた制限内に維持するのを助け、被食者の個体数と生息地の状況が大きく変動するのを防いでいるのは間違いません。捕食者は野生生物の最良の管理者と言えるでしょう。

マウンテンゴリラ(訳:福屋正修)

思索社、1979-1980年(ISBN 1045-0079-3326 (上)、1045-0080-3326 (下))

マウンテンゴリラは20世紀初頭まで文献に登場することもなく、その生態については、1950年代の後半まで全く不明でした。シャラーは59年から2年間にわたって、東部コンゴ、西部ウガンダ、西部ルアンダの自然環境の中で、マウンテンゴリラの生態と行動を直接観察し、大型類人猿の謎を次々に明らかにしました。本書はその調査結果を報告したものです。
ゴリラ群の追跡は通常彼1人で行い、接触後はゴリラから自分の姿がよく見える場所に静かに腰を下ろして、平和で友好的な接触を繰り返しました。ゴリラの個体を識別する方法として、鼻の形状の違いを利用しました。
上巻ではゴリラの分布と生態、年齢と性による分類、身体的特徴と個体差、感覚や気質、群れの構造と行動などについて触れています。視覚、聴覚、嗅覚の鋭敏さは、人間のものとほぼ比肩でき、性格は飼育下のものと同様に、著しく閉鎖的、内向です。基本的には四足歩行の地上歩行性で、木にはよく登るが、その時は非常に用心深いものです。群れの大きさは2個体から30個体まで変化があり、群れ間の敵対はまれで、見据えて威嚇するか、見せかけの攻撃をするかにとどまります。昼行性であり、ほとんどすべての活動は午前6時から午後6時までに行われるといいます。
下巻では個体の活動と習性、社会的行動、環境に対する反応、保護策について報告しています。群れのリーダーは1頭の銀背オスであり、その行動によって群れの行動が決定されます。群内での優劣の順序は大部分、身体の大きさに関係します。群れのメンバー間の交渉は、その様式、頻度、持続時間にかなり変化が見られます。付き合い方は親密で、年齢、性別の全階層を通じて、全個体は互いに寛容であり、我慢強く、けんかなどの攻撃的な行動はまず見られません。巨体を持ちながら、争いを好まず、仲間との平和共存を維持する知的能力の高い動物であることが分かります。
マウンテンゴリラの保護には、第一に原住民が食用としてゴリラを大量殺害できないようにするため、近代的銃器を持たせないことです。さらに、地方政府は動物狩猟者、医学機関、博物館などが捕獲する数に厳しい制限を設けるべきだと提言します。一方で、耕作によく適した土壌を持つ地域では、生息環境が農耕民や遊牧民の侵入によって脅かされ、容易ならない状態にあると警告しています。今後はマウンテンゴリラの侵入を防ぐ対策が望まれます。
専門的な報告書ですが、全体的に難解な個所や論議はないし、専門家でなくても大変面白く読め、現地調査の苦楽を著者と共にする喜びが味わえるものとなっています。

1995年度: 吉良龍夫博士

熱帯雨林を考える(四手井綱英・吉良竜夫監修)

人文書院、1992年 (ISBN 4-409-24035-8)

「熱帯林破壊と砂漠化は別のもの」「用材の伐採だけでは熱帯雨林はなくならない」──吉良氏は「事実の誤認に基づいた主張は有害だ」として、一般向け情報の中の誤解をこのように正すことで本書をつづり始めます。
熱帯雨林を一度伐採しただけなら、その後に二次林が復活するのは驚くほど速いといいます。森林の再生が妨げられるのは、火入れや放牧のような特殊なインパクトが繰り返し加わった場合だけなのです。また、熱帯雨林での用材伐採は「択伐」であって「皆伐」ではないので、用材を伐り出すだけなら、森林は短い期間かなり荒廃するも のの、なくなるわけではなく、環境に対する森林の保全機能もほぼ存続するといいます。
このような基本的な見方に立ちながら、両監修者の研究室で育った9人の学者がそれぞれ熱帯雨林の構造や土壌、マングローブ生態系、泥炭湿地林などの専門分野について、個性的な持論を展開します。
監修者と筆者による座談会「熱帯雨林の未来と地球環境」で締めくくりますが、各自の立場や世代による考え方の違いが出ていて興味深いものです。その中で、森林の存在は温暖化以外の面でも、地球環境の安定のためにきわめて重要であり、森林の復活は息長くやり遂げなければならない、という認識では一致しています。

地球環境のなかの琵琶湖

人文書院、1990年 (ISBN 4-409-24032-3)

水資源の保全(琵琶湖流域をめぐる諸問題)

人文書院、1987年 (ISBN 4-409-24025-0)

水資源問題は水の量の確保だけではなく、質の保全が緊急の課題になっています。雨水が川や湖に到達する前に、人間からの排出物などによって汚され、水があっても使えない、上水化のために経費がかかり過ぎるといった悩みがあるのです。水質悪化の原因は人工毒物、酸性雨、先端産業の排泄物、発がん物質など様々だが、中 でも問題になるのが富栄養化です。
富栄養化とは、湖沼に流れ込んだリンや窒素のような栄養物質が水と泥の中に蓄積し、生物の生産量が増えていく過程を指します。富栄養化とはプランクトンの爆発的な発生から始まり、湖沼の中の有機物の濃度が高まって、水質が悪化したり、水に嫌なにおいが付いたりすることです。富栄養化によってプランクトンや魚の種類が変化 するだけでなく、プランクトンの死体などが水底にたまってヘドロ化するのです。
富栄養化の初期には、リンの供給量の多少が決定的な役割を果たすことが多いといわれます。一方で、富栄養化がかなり進行した湖沼では、窒素が制限物質になることもあります。この二つの物質の流入量を抑えることが唯一の根本的対策だと編者は主張します。その対策を立てるためには、流入するリンや窒素の形態を細かく調べるとともに、湖沼の 中での化学的変化を定量的に把握しておかなければならないのです。

熱帯林の生態

人文書院、1983年 (ISBN 4-409-24010-2)

世界に残っている森林面積の40─50%は熱帯林です。植物体あるいは木材の蓄積量でいえば、この比率は60%前後に高まります。その熱帯林が焼き畑をはじめ集団農地の造成、木材伐採などのために急速に失われつつあります。森林を破壊すれば、巨大な炭素の貯蔵庫から炭酸ガスを絞り出すことになるのです。大気中の炭酸ガスの濃度がわずかに増えるだけで、気温を著しく高める。グローバルな環境問題の中で、最も危険率の高いものの一つにつながります。
もし1年に1千万?の熱帯林が完全に焼かれるとすれば、地上部の植物体の平均現存量を1?当たり3百?、その約半分が炭素だと仮定して、年間の二酸化炭素放出量は55億?程度になり、化石燃料から発生する量の30%くらいに相当します。森林の消失によって、土の中の有機炭素の分解が促進されることなどを考えると、化石燃料消費から出るのとほぼ同量になる、という一部の生態学者の見積もりも過大とは言い切れないと著者は指摘しています。
熱帯林の減少は遺伝子源の保全という角度からも大きな問題です。熱帯林の豊富な生物相を保存することは、地球生物界の未来の進化の保障に結び付くことでしょう。栽培植物や有用動物の新しい型の開発のためにも、巨大な遺伝子プールは保存する必要があります。

ヒトと森林・森林の環境調節作用 (吉良竜夫、只木良也)

共立出版、1982年 (ISBN 4-320-05258-7)

森林が人間に与える恩恵は、木材などの物質資源だけではありません。私たちは森林が存在することによって生じる人間生活環境の保全といった目に見えない働きをとかく忘れがちです。環境保全の効果としては、気象条件の緩和、水源かん養、自然災害の防止、防火、騒音阻止、大気浄化、環境指標、鳥獣保護、保健休養、風致 保全、教養・教育と主なものだけで10指を超えます。
これらの効用は森林が人間の精神、肉体両方に直接働きかけることによって、豊かな人間性の育成と向上に寄与するという森林固有のものと、森林がその周辺の 環境に対して防護的・保全的に働き、間接的に人間生活の健康と安全に貢献するという対症的なものの2つに大別できます。
本書では、保健、風致、教養面などにおける、他の何者によっても代替しえない前者の効果が満喫できるような環境を取り戻し、それを維持することが今日の最重要課題だと説いています。
森林の破壊が地球上の自然環境に大きな変化をもたらし、人間の生存をおびやかすという危機感が世界的に高まっています。大規模な森林の消失によって、近い将来に数十万種の動植物が絶滅するという予測もあります。森林破壊がそのまま環境悪化につながることを広く社会に訴える意義は大きいのです。

生態学入門 (梅棹忠夫・吉良竜夫)

講談社、1976年 (ISBN 4-06-158078-7)

裏表紙から「科学技術文明の急速な浸透はさまざまところで人間と自然の調和に蹉跌を生じています。公害や自然災害はいったい何に起因するのでしょうか。生物科学と社会・文化科学を架橋すべく脚光を浴びて登場した生態学は今日必修科学の一つであり、地球規模で視点が要求される今日、真の生態学的知識が必要となるでしょう。本書はそう した要請に応えるべく生態学の基本用語を項目別に記述し参考文献を付した、斯界第一人者の手になる入門書の白眉でです。」(以上、出版社の承諾を得て載せています)

1994年度: ジャック・バロー博士

食の文化史 (訳:山内昶)

筑摩書房、 1997年 (ISBN 4-480-86108-4)
(フランス語版: Messidor/Temps Actuels, 1983年)

パリ国立自然史博物館教授の著者は第2次大戦中、16歳の時に強制収用所へ送られました。この時の飢えと栄養失調という過酷な体験から、食に対する強い関心と、食文化は単なる生理的必要に基づく物質文化ではなく、人間の想像力や象徴的幻想の所産だという思想を身に付けました。食べることによって、人間は自然を改 変しながら、同時に自分自身と社会を作ってきたといいます。
本書ではこうした考え方に立って、植物の栽培や家畜の飼育から、火の利用による調理革命、人間の味覚や食べ物の風味の変化、食糧をめぐる戦争、さらには現代の飽食と飢餓の並存、過食や拒食の食病理までについて、大きなスケールで食文化の歴史を解き明かしています。日本のカラスミと同じ食べ物が古代エジプトにあったこと、コロンブスが新大陸を発見する以前にフランスで新大陸原産のインゲン豆をシチューに使っていたことなど、興味深い話題は尽きません。
現代のファーストフードに対しては、古い食伝統の一部をなしていたことに理解を示しつつも、その画一性を非難し、今のハンバーガーなどと違ったものが今後大規模にフランスの創案によって、忙しい人々に提供されるのを期待しているといいます。自国への思い入れの深さも時々顔を出しています。

1993年度: ギリアン・T.・プランス博士

Bark - The Formation, Characteristics, and Uses of Bark Around the World
(樹皮:世界の樹皮の創造、特徴と利用)

(写真:ケル・B・サンドベド 本文:ギリアン・T・プランス、アン・T・プラス)
Timber Press, Inc.、 1993年 (ISBN 0-88192-262-5) (英語版のみ)

カバー見出しから「木の花、葉と実についての本は数百冊ありますが、今まで樹皮専門の本がありませんでした。世界中の樹皮の特徴と利用に関するとても興味深い本書です。地味でつまらない木の皮と思ってしまう一方で、人間、昆虫や動物にとって多数利用でき、多様性が高く自然の美しさの一つであるというのを本書が明らかにしています。
著者は樹皮の役目と構造、木の種類別に大事な特性と厳しい環境に対する不思議な適応を読みやすいスタイルで説明しています。カヌーや布作りから燃料や繊維用まで樹皮は世界の人々に美しく便利だと思われています。昆虫と動物の世界にも沢山の生物がカモフラージュや餌や家等に樹皮を利用しています。」(以上、出版社の承諾を得て載せています)。

Wildflowers for All Seasons(四季の野生の草花)

Crown Publishers、1989年 (ISBN 0-517-57007-6) (英語版のみ)

カバー見出しから「北東アメリカの内陸と海岸で毎年咲く野生の草花を代表するアナー・ウォーテックのもっとも美しい作品から129枚を選んで本書に掲載している。」
本書は春、夏、秋と冬に分けて、それぞれの季節に咲く野生の花のウォーターカラー画集です。
「ギリアン・T・プランス博士、英国王立キュー植物園園長が全ての草花を科・属・種で分類し、種別の地域的な分布と特色や薬草にとっての価値を説明しています。このカラフルで素敵な本は自然や美術が好きな人向けです。」

Leaves - The Formation, Characteristics, and Uses of Hundreds of Leaves Found in All Parts of the World

(葉っぱ:世界の葉っぱの創造、特徴と利用)
(写真:ケル・B・サンドベド 本文:ギリアン・T・プランス)
Crown Publishers、 1985年 (ISBN 0-517-551527) (英語版のみ)

カバー見出しから「スミソニアン博物館(ワシントンD.C.)の有名な写真家ケル・B・サンドベドは世界を廻って5,000枚以上の葉の撮影を行い、そのうち300枚の写真を載 せた素晴らしい本を発表しました。本文はギリアン・T・プランス、ニューヨーク植物園副園長によって解りやすく本格的に書かれて います。本書は葉に関しての決定版と言えるでしょう。
葉の基本的な構造と形、脈、縁、斑入りや分厚いさ、自らを護るために毒や針がある葉っぱ、肉食植物、巣になっている葉、葉の毛、重量に耐 える葉、変わった葉、大量の葉、動く葉等の色々な話題を説明しています。さらに、害虫の被害、便利な葉、葉の化石、葉の真似をする 昆虫と葉採集もあります。採集の技術の説明をしている付属書も付いています。
ケル氏はアメリカ、イギリス、ブラジル、コロンビア、カナダ、ドイツ、ポリネシア、フィジー、ジャワ島、サバー、スリーランカ、ニューカレドニア、東と南アフリカ、オーストラリア、ニューギニア、西インド諸島、コスタリカ、エクアドル、ニューブリテン島からはじめ沢山の諸国で写真を撮影してきました。
本書は自然を好む人、植物学専攻の学生、写真に興味のある人向けです。」