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コスモス国際賞

2016年(第24回)受賞者

氏名 岩槻 邦男
Dr. Kunio Iwatsuki
生年月日 1934年7月15日(82歳)
国  籍 日本
所属・役職 東京大学名誉教授
http://www.u-tokyo.ac.jp/index_j.html
兵庫県立人と自然の博物館 名誉館長
http://www.hitohaku.jp/infomation/greeting.html

授賞理由

岩槻邦男博士は、一貫して、生物が「生きている」とはどういうことかを総体として明らかにする姿勢で研究・教育を行ってきた。

博士は1960年代から、様々な生物を統合的に解明する多様性の生物学の研究を推進してきた。近年の分子生物学を初めとする分析的な生物学の飛躍的な発展に対して、博士はその分野の更なる振興を必要としつつ、自身は形態学など伝統的な手法による情報収集も継続してきた。また、生物学の解析手法の発展に応じて、葉の発生、生殖、生態・分布、化石など多様な情報の構築にも取り組んできた。さらに、他の研究者によって明らかにされた生物学の諸情報をも結びつけ、多様な生物間の相互関係を統合的に理解しようと努めた。地球上の生き物はすべてが一体となって「生命系」を形成して生きているという概念は、このような多分野にわたる博士の基礎研究の成果にもとづいてまとめあげられたものである。 

具体的な例として、陸上植物の進化を理解する上で鍵になるシダ植物と裸子植物の系統進化の研究においては、1990年代初めに分子系統学の研究手法をも統合して、実質的に1研究グループでそれらの系統関係を世界にさきがけて解明した。これらの研究成果は、多様性の生物学の意義を他分野の研究者にも理解させ、それを科学として定着させることにも大いに貢献した。

さらに、統合的な視点を重視した研究姿勢は特に後進の育成に対して実を結び、岩槻博士が主宰していた京都大学と東京大学の植物系統分類学研究室からは、系統分類学のみならず、多様性生物学のまさに多様な分野(発生進化学、生態学、古植物学、保全生物学等)において、現在、世界の第一線で活躍している研究者を輩出させた。そして、指導した後進と共に、多様性の生物学を推進する上で非常に大きな貢献を果たした。

また、東南アジア地域を中心に、植物の種多様性を解明するための現地調査も地道に推進してきた。科学行政の面における、国際共同研究としての海外学術調査の推進への貢献も大きい。同時に、アジア諸国から留学生を受け入れ、学位を取得して帰国した後も共同研究を通じて支援を続けた。自国に戻った元留学生達は、現在、それぞれの自国の生物多様性を解明するための国際的研究プロジェクトを主導し、活躍している。

生物多様性研究の実績にもとづき、岩槻博士は、野生植物の保全の面でも大きな貢献をしてきた。植物の多様性の基盤的な研究から実際の保全活動まで幅広く寄与できる植物園の役割の重要さを強く訴え、国際植物園連合の代表を務めた際には、そのAsian-Divisionを設立し、アジアの植物園のネットワーク化に成功したことは特に大きな成果である。

このように、生物多様性を統合的に探求しつづけると共に、アジア地域を中心にその保全にも大きな貢献をした岩槻博士の功績は、「自然と人間との共生」を理念とするコスモス国際賞の授賞にふさわしいと評価した。

学歴

1957年 京都大学理学部卒
1963年 京都大学大学院理学研究科博士課程単位取得退学
1965年 京都大学理学博士

職歴

1972-1983年 京都大学理学部教授
1981-1995年 東京大学理学部教授
1983-1995年 東京大学理学部附属植物園長
1995-2000年 立教大学理学部教授
2000-2005年 放送大学教授
2003-2013年 兵庫県立人と自然の博物館館長

主な受賞歴

1994年 日本学士院エジンバラ公賞
2004年 日本植物学会賞
2007年 文化功労者
2009年 瑞宝重光章
2010年 Robert Allerton Award
2010年 Life-time Achievement Award(International Pteridological Society)

主な論文

  • Iwatsuki, K. Taxonomy of the thelypteroid ferns, with special refrence to the
    species of Japan and adjacent regions I-III. Coll. Sci. Univ. Kyoto (B) 30-31 (1963-65)
  • Iwatsuki, M. Studies in the systematics of filmy ferns I. A note on the identity
    of Microtrichomanes. Fern Gaz. 11:115-124 (1975)
  • Iwatsuki, K. and M. Kato. Variation in ecology, morphology and reproduction
    of Asplenium sect. Hymenoasplenium (Aespleniaceae) in Seram,
    Indonesia. J. Fac. Sci. Univ. Tokyo III 14:37-48 (1986)
  • Iwatsuki, K. Hymenophyllaceae. In:K. U. Kramer and P. S. Green, eds.,
    The families and Genera of Vascular Plants. Vol. 1. Pteridophytes and
    Gymnosperms. pp.157-163. Springer-Verlag, Berlin (1990)
  • Darnaedi, D. and K. Iwatsuki. Electrophoretic evidence for the orogin of
    Dryopteris yakusilvicola (Dryopteridaceae). Bot. Mag. Tokyo 103:1-10 (1990)
  • Lin, S. J., M. Kato and K. Iwatsuki. Diploid and triploid offspring of triploid
    agamosporous fern Dryopteris pacifica. Bot. Mag. Tokyo 105:443-452 (1992)
  • Hasebe, M., Omori, T., Nakazawa, M., Sano, T., Kato, M. and K. Iwatsuki.
    RbcL gene sequences provide evidence for the evolutionary lineageres of
    leptsporangiate ferns. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 5730-5734 (1994)
  • Ebihara, A., Iwatsuki, K., Ohsawa, TA.& Iwatsuki, K. Hymenophyllum paniense,
    a New Filmy Fern Species (Hymenophyllaceae) from New Caledonia.
    Syst. Bot.28:223-235 (2003)

主な著書

  • Flora of Thailand Vol. 3 Bangkok (1979-89)(共著)
  • Modern Aspect of Species 東大出版会 (1986)(共編)
  • Flora of Japan Vol.I-III Kodansha (1993-)(共著・編)
  • シダ植物の自然史 東大出版会 (1996)
  • 生命系—生物多様性の新しい考え 岩波書店 (1999)
  • 多様性の植物学1,2,3 東大出版会 (2000)(編集)
  • 生物多様性のいまを語る 研成社 (2009)