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コスモス国際賞

2014年(第22回)受賞者

氏名 フィリップ・デスコラ
Philippe Descola
生年月日 1949年6月19日
国  籍 フランス
所属・役職 コレージュ・ド・フランス教授
http://www.college-de-france.fr/site/college/index.htm

授賞理由

フィリップ・デスコラ教授は、人類学者として南米アマゾンに住む先住民への綿密な調査をもとに、欧米で流布する人間中心主義の考えに反駁し、自然と文化を統合的に捉える「自然の人類学」を提唱した。このことは「自然と人間との共生」を掲げるコスモス国際賞の意義に合致するものである。

デスコラ教授は、世界有数の哲学者であり人類学者でもある。教授は、南米アマゾンのヒヴァロア語族のアチュア(Achuar)の人びとの村落で人間と自然の共存に関する集中的な調査を行った。アチュアの人びとは、焼畑農耕と狩猟を主な生業とし、河畔と河間台地を含む環境を利用するなかで、奥深い知識と実践活動を先祖から継承してきた。その内容を詳細に調査、分析した教授は、人類学的なモノグラフの域を超えて、人間と自然の本源的な関わりの解析を「自然の人類学」として世界的な視野から進め、自然と文化に関する新しいモデルを構築した。

通常、農業は第1次自然を壊し、収益性のある栽培種を植えるものであるが、アチュアの人びとは開墾前の森林に保存されている野生植物の種子や動物の糞便中の種子を移植ないし播種し、原生林よりもはるかに豊かな生物種を含む森林を形成してきた。つまり、人間による適切な介入が永続的に生態系を維持していることを示した。

この調査をもとに教授は、「自然と文化」の両者を統合的に捉えるべきとし、4つの存在論(Ontologies)に注目した。すなわち、人間世界と非人間世界の関係は、内面性(Interiority)と身体性(Physicality)、その性質の有無によって、アニミズム、自然主義、トーテミズム、類推主義に分別されるとするパラダイムで整理されてきたが、教授は、これまで個別の扱いであった4つの哲学的存在論を統合し、止揚する意義を唱えた。

周知のとおり、アマゾンでは大規模な開発や農地化によって豊かな森林生態系とそこで育まれてきた生物多様性が急速に損なわれる危機が発生し、その生態系と深く関わって生きてきた先住民の伝統的な暮らしや生命も危機に瀕している。こうした事態は世界各地でも発生しており、自然破壊をできるかぎり軽減し、自然と人間がともに存続していくための哲学を構築することが喫緊の課題となっている。教授は、「自然と人間との共生」のためには、自然の破壊が未来への負の遺産とならないよう、自然と文化を二元論的に見る欧米主流の思想を反省する必要があると考えている。この指摘は技術的・経済的な問題に還元するのではなく、共生の意義を考慮すべきとするもので、教授の研究成果と思索は、今後ともに世界中で注目すべき価値がある。

アマゾンに住む先住民の自然観とそこの自然と関わる諸活動に焦点を当てた研究から哲学的な思考へと論を進めたフィリップ・デスコラ教授の功績は、地球上の環境問題を抱える各地への普遍性を持つものと評価でき、まさにコスモス国際賞の意義に合致する。また、二元論への警鐘は、欧米の伝統的園芸博覧会に東洋の自然観を融合させ、人間も自然の一部であるとして開催した1990年の国際花と緑の博覧会の理念にも沿うものとして評価できる。

学歴

1972年 パリ西ナンテール・ラ・デファンス大学(パリ第10)にて哲学修士号取得
1972年 パリ西ナンテール・ラ・デファンス大学(パリ第10)にて民俗学学士号取得
1983年 社会科学高等研究員(EHESS)にて社会人類学第三過程博士号取得

職歴

1980~1983年 社会科学高等研究院(EHESS)にて講座主任
1983年 人間科学センターにてリサーチ・フェロー
1984年 社会科学高等研究院(EHESS)講座主任助手
1987~1989年 社会科学高等研究院(EHESS)講座主任
1989~2000年 社会科学高等研究院(EHESS)専任研究主任
2000年 コレージュ・ド・フランス自然人類学講座教授
2001年~ 社会人類学研究室室長 (コレージュ・ド・フランス/フランス国立科学研究センター(CNRS)
/社会科学高等研究院(EHESS)共同運営)
2001年~ 社会科学高等研究院(EHESS)にて研究主任を兼任

主な賞歴

1995年 フランス国立科学研究センター(CNRS)銀賞
1997年 教育功労勲章シュヴァリエ章
2000年 レジオン・ドヌール勲章シュヴァリエ章
2004年 国家功労章オフィシエ章
2010年 レジオン・ドヌール勲章オフィシエ章
2011年 道徳政治科学アカデミー・エドゥアール・ボヌフー財団社会学賞
2012年 フランス国立科学研究センター(CNRS)金賞

主な著作

  • 『飼い慣らされた自然 ——アチュア族の生態環境における象徴主義と実践』、パリ、サンジェ=ポリニャック財団・人間科学センター出版(1986)
  • 『人類学の諸概念』(ジェラール・ランクリュ、カルロ・セヴェーリ、アンヌ=クリスチーヌ・テイラーと共著)、パリ、アルマン・コラン社(1986)
  • 『民俗学・人類学事典』(M・アベレス、P・ボント、J=P・ディガール、C・デュビー、J=C・ガレー、M・イザール、J・ジャマン、G・ランクリュと共著)、パリ、フランス大学出版会(PUF)(1991:最新の再版は2010年)
  • 『黄昏の槍 —— アマゾン川上流域ヒバロ族に関する報告』、パリ、プロン社(1993)
  • 『アマゾン川を遡航する —— アマゾン川流域社会の人類学と歴史』(アンヌ=クリスチーヌ・テイラーと共著)、雑誌『人間』特別号、126-128号(1993)
  • 『自然と社会 —— 人類学的視点』(ジスリ・パルソンと共著)、ロンドン、ラウトレッジ社(1996)
  • 『社会的なものの生産 —— モーリス・ゴドゥリエの周辺』(ジャック・アメル、ピエール・ルモニエと共著)、パリ、ファイヤール社(1999)
  • 『自然と文化を超えて』、パリ、ガリマール社(2005)
  • 『イメージの制作場 —— 世界観と表象形式』、パリ、ソモジ社&ケ・ブランリ美術館(2010)
  • 『他者たちのエコロジー —— 自然の問題と人類学』、パリ、クアエ出版(2011)
  • 『クロード・レヴィ=ストロース —— 世紀の足跡』、パリ、オディル・ヤコブ社・コレージュ・ド・フランス(2012)